京都大学法科大学院 平成24年度 |
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科目名:EU法[EU Law] | 担当:中西 康・濵本 正太郎 | 区分: 選択科目I | ||
配当年次: 2・3 | 開講期: 後期 | 曜時限: 火2 | クラス数: 1 | 単位: 2 |
概要
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現在、ヨーロッパでサッカー選手が契約期間満了時に移籍する場合に移籍金なしで移籍できるのも、中田英寿以降、日本のサッカー選手が続々とヨーロッパで活躍しているのも、EU裁判所のボスマン判決のためである。 また、ある種のお酒は最低でも(最高ではない)25%アルコールを含有しなければならないとのドイツ法はEU法に違反ではないかとの訴訟で、ドイツはこの法律は国民の健康を保護するためである(?)と裁判で主張し、当然敗訴した。これはEU裁判所のカシス・ド・ディジョン判決であり、EUの市場統合に関する最も有名な判決である。 サッカーやお酒に限らず、EU法は今日ではほとんどの法分野に関係しており、ヨーロッパでビジネスを行う場合はもちろん、ヨーロッパ企業と取引する場合にも、また、EU構成国の国内法を学ぶ際にも、EU法を無視することはできない。 また、EU法は、国際法でも国内法でもない法体系であり、三権分立を有さない統治機構を持ち、27カ国で一つの市場を作るという壮大な試みを支えるインフラであり、刻々と動いているダイナミックな法である。このようなEU法にふれることで、日本法を相対化して見直してみる目も養いたい。 具体的には、EU法総論について必要最低限の基礎知識を学んだ後、EU裁判所の裁判例を中心にEU実体法、特に域内市場法を学ぶ。 |
授業形式
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双方向・多方向形式による。教科書、レジュメおよび配付資料の予習を前提に、質疑応答を重ねながら講義を行う。前半を濱本が、後半を中西が担当する。 なお、人数制限を行う(20名程度)。 |
授業内容
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1.EU法の手引き/欧州統合史この授業の概要説明と打ち合わせの後、EU法の手引きとして、EU法に関する基本資料とその入手方法などを説明する。そして、今日に至る欧州統合の歴史を概観する。 2. EUの機構的構造・立法過程 EUにはどのような機関があり、それぞれどのような存在理由があるか。ヨーロッパ議会は、我々が知る国内の議会とどのように似ていて、どのように異なるか。EUではどのような法規範がどのようにして作成されるか。 3. EU法の直接適用可能性 日本の裁判所は、条約をそのまま適用することがある。なぜそれは可能なのか。EU構成国裁判所におけるEU法の適用は、それとどのように異なっているのか。EU法には様々な種類の法規範があるが、全てについて同じように国内適用できるのか。この回で扱われるのは、EU裁判所史上の最重要判決である、van Gend en Loos判決である。 4. EU法の優越性 日本法秩序において、国際法はどのような階層的位置づけを与えられているか。EU国内法秩序におけるEU法の位置づけは、それとどのように異なるか、そしてそれはなぜか。ここでは、おそらく史上二番目に重要な、Costa/ENEL判決を扱う。EU法が国内法秩序において国内法に優越するのであれば、民主主義の観点からそれはいかにして正当化可能なのだろうか。 5. EU裁判所 世界各地に存在する種々の経済統合とEUとを比べた場合、最大の相違点は裁判所の機能である。EU裁判所は、他の国際裁判所と比べて、また、国内裁判所と比べて、どのような特質を持つか。論告担当官(法務官。avocat general)とは何者か。構成国国内裁判所がEU裁判所に意見を求める先決裁定とはどのような手続か。 6. EUと人権 2009年12月にリスボン条約が発効するまで、EUは人権に関する法規範を有していなかった。それはなぜだろうか。人権に関する明文規定がなければ人権は保障できないのか。リスボン条約が発効することによって、何がどう変わるのか。EU法とヨーロッパ人権条約とはどのような関係に立つのだろうか。 7. EUと構成国との権限配分・EUの対外関係 EU構成国は、EUが関与する分野に関してあらゆる権限を失ってしまうわけではない。ある特定の問題につき、EUと構成国とのどちらがどの程度権限を有しているかは、どのようにして判断すればいいのだろうか。これは、日本(企業)から見れば、ある特定の問題につき、誰と話を付ければいいのかを考えることである。もし、EUも構成国も権限を有する事項があるとすれば、外部の者はどちらと話を付ければいいのだろうか。 8.EUの経済統合総説・商品の自由移動1(関税同盟) ドイツ、フランス、イタリアなど各構成国の国境をそのままにしつつも、国境で分けられない1つの市場にするには、どのような法制度が必要だろうか。この回以降、経済統合を目指して、物、人、サービス、資本の自由移動を確保する域内市場法を中心に扱う。 この回では、域内市場法の全体像の概説に続いて、商品の自由移動に関して,関税同盟と差別的内国税の禁止の問題を検討する。 9.商品の自由移動2(数量制限及びそれと同等の効果を有する措置の禁止1―差別的措置) 商品の自由移動のため,国産品と差別して輸入品に課せられる,数量制限及びそれと同等の効果を有する措置の禁止について検討する。 10.商品の自由移動3(数量制限及びそれと同等の効果を有する措置の禁止2―無差別的措置) 国産品と輸入品の区別なく適用される無差別的適用措置について。Cassis de Dijon判決とその後の判例の展開を検討し、判例の到達点を確認する。 11.人の自由移動1(労働者) かつてEUにおける人の自由移動は、従来、労働者、自営業者、サービス提供者という経済活動者についてのものだけが存在していた。この回は、労働者の自由移動について検討する。 12.人の自由移動2(開業・サービス) 引き続いて、開業の自由及びサービスの自由を検討する。 13.人の自由移動3(EU市民権) マーストリヒト条約によりEU市民権が導入された後、経済活動者ではなくEU市民一般の自由移動が認められ、EUは経済統合のみではなく、政治的及び社会的統合へと進んでいる。この観点から、最近の判例を検討する。 14.自由・安全・正義の領域/全体のまとめ EUは経済統合をこえて政治的,社会的統合まで進んでいる。その関係で,自由・安全・正義の領域を創設することを目的と掲げるようになっている。これは例えば,日本からドイツへ入国する際にはパスポートチェックがあるが,その後,ドイツからイタリアへ移動する際にはそのようなチェックなしに入国できることなどに現れている。この回は,この概念の内容を検討し,EUが何を目指しているのか考える。 最後に,全体のまとめとして,ディスカッションを行う。 |
成績評価方法等
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筆記試験及び平常点による評価:筆記試験と、平常点との総合評価によって判定する。なお、4回以上正当な理由なしに授業を欠席した場合には、単位を認めない。 |
リサーチペーパー
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有
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教材
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教科書:中村民雄=須網隆夫編『EU法基本判例集〔第2版〕』(日本評論社、2010)参考書:庄司克宏『EU法 基礎篇』(岩波書店、2003)、庄司克宏『EU法 政策篇』(岩波書店、2003)、須網隆夫『ヨーロッパ経済法』(新世社、1997) その他:講義の基本となるEU条約・EU運営条約については、英文を配布する。日本語訳を参照したい者は、『ベーシック条約集 2012年版』(東信堂)を用意すること。2009年のリスボン条約発効に伴い全面改正されているので、2009年以前の版は使えないことに留意されたい。 |
到達目標
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上記「授業内容」記載の各項目についてその内容を具体的に説明できるように理解して、上記「概要」記載の成果を得ること。
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その他
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開講時までに、EUに関する本(新書程度でよい)を1冊読んでおくこと。
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